「こけら落とし」の意味は、『広辞苑 第七版』(岩波書店)に次のように示されている。
<【杮落し】(工事の最後に屋根などの木屑を払い落としたところから)新築劇場の初興行。>(出典:『広辞苑 第七版』p1040より引用)
この「杮」という漢字は「こけら」と読むが、これも同書で次のように示されている。
<【杮・木屑】①木材を削るときにできる木の細片。また、木材を細長く削りとった板。>
つまり「杮落し(こけら落とし)」とは、木材を削るときにできる木の細片を落とすような様を会場の初公演に見立てたことに由来しているのだ。
しかし現代では劇場だけでなく様々なスタジアム、アリーナ、ホールといった会場でも、この「こけら落とし」という言葉が使われるようになっている。
現代で「こけら落とし公演」は、一つの会場で複数存在してしまっている
では現代の会場において、「こけら落とし」はどのような意味を持っているのだろうか?
厳密な定義として「こけら落とし」は上記の通り「初興行」であるため、1回きりの(1つのみの)公演であるはずだが、実際には、一つの会場に複数存在してしまっているのが現状だ。
理由は、会場側から厳密に「こけら落とし公演」を定義するケースはほぼないということ(※会場側にそれをするメリットがない)と、そして現代の会場では多種多様な興行が行われているということ。
これらの事情によって、一つの会場には音楽の初興行、スポーツの初興行、学会・シンポジウムの初興行など、それぞれのジャンルに”事実上のこけら落とし公演”が存在してしまっている状況なのだ。ゆえに、例えば”東京ドームのこけら落としはオープン戦だ”、”いや、美空ひばりのコンサートだ”といった議論が、よく巻き起こってしまうのである。
会場のこけら落としを調べる際には、辞書にも示された元々の定義による「こけら落とし」と、現代の多目的会場で実態として定義づけられている「こけら落とし」の2つの定義を確認する必要がありそうだ。
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